ロボトミー手術とは何だったのか ― 治療と称された20世紀の精神外科

ロボトミー手術の概要

ロボトミー手術(lobotomy)は、20世紀前半に行われていた精神外科手術の一種です。主に前頭葉と脳の他の部位との神経連絡を切断することで、精神症状を緩和しようとする目的で考案されました。

当時は、統合失調症や重度のうつ病、強い不安や興奮状態などに対して、有効な薬物療法がほとんど存在していませんでした。そのため、ロボトミーは「治療の選択肢のひとつ」として注目を集めた時代がありました。


ロボトミーはどのように始まったのか

1930年代、ポルトガルの神経学者 エガス・モニス によって、前頭葉の神経連絡を遮断する手術法(ロイコトミー)が提唱されました。この研究は当時の医学界で評価され、1949年にはノーベル生理学・医学賞が授与されています。

その後、アメリカでは精神科医によって簡略化された術式が普及し、短時間で行える手術として多くの精神病院で実施されるようになりました。


なぜ広く行われるようになったのか

ロボトミーが広まった背景には、当時の社会的・医療的事情があります。

  • 精神疾患に対する有効な治療法が限られていた
  • 精神病院が慢性的に過密状態だった
  • 興奮や暴力行為が一時的に落ち着く症例が報告された

こうした理由から、ロボトミーは「患者と医療現場の負担を軽減する手段」として受け止められた側面がありました。


明らかになった問題点と批判

しかし、手術が広く行われるにつれ、深刻な問題点も明らかになります。

  • 感情表現の乏しさや意欲低下
  • 判断力・計画力の低下
  • 日常生活への適応困難
  • 合併症や後遺症のリスク

また、患者本人の十分な同意が得られないまま手術が行われた事例もあり、医療倫理の観点から強い批判が起こりました。


日本におけるロボトミー手術

日本でも、戦後の一時期に精神外科手術が行われていた記録があります。ただし、1970年代になると精神医療のあり方が見直され、1975年に日本精神神経学会が精神外科を否定する決議を行いました。

この決議以降、日本ではロボトミーを含む精神外科手術は実施されなくなり、治療の中心は薬物療法や精神療法へと移行していきました。


映画や文学に描かれるロボトミー

ロボトミーは、後年になって映画や文学の中で取り上げられることもあります。特に有名なのが、ケン・キージーの小説を原作とする カッコーの巣の上で です。

この作品では、ロボトミーは医療技術そのものというよりも、「制度や権力によって個人が抑圧される象徴」として描かれています。こうした表現を通じて、ロボトミーは社会的・倫理的な問題を考える題材として語られるようになりました。


現代の精神医療とロボトミーの位置づけ

現在、ロボトミー手術は医療として行われていません
現代の精神医療では、以下のような方法が中心となっています。

  • 薬物療法
  • 認知行動療法などの精神療法
  • リハビリテーションや社会的支援

一部の難治性疾患に対しては脳外科的治療が検討される場合もありますが、厳格な倫理審査と慎重な適応判断が行われています。


まとめ

ロボトミー手術は、治療法が限られていた時代背景の中で生まれた医療行為でした。しかしその後、多くの問題点が明らかになり、医療倫理や人権の観点から否定されるに至りました。

現在では、ロボトミーは精神医療の歴史を振り返り、同じ過ちを繰り返さないための重要な教訓として位置づけられています。医療が進歩する中で、「効果」だけでなく「人の尊厳」を守ることの重要性が、改めて認識されているのです。