ピエロと呼ばれた殺人鬼
――ジョン・ウェイン・ゲイシー事件が残した恐怖と教訓
「ピエロ」と聞いて、多くの人は子どもを笑顔にする存在を思い浮かべるだろう。しかし、そのイメージを根底から覆した実在の人物がいる。1970年代のアメリカで起きた連続殺人事件の犯人、ジョン・ウェイン・ゲイシーだ。
彼は地域では“善良な市民”として知られ、子ども向けイベントではピエロ姿で人々を楽しませていた。その裏で、想像を絶する犯罪が繰り返されていたのである。

地域に溶け込んだ「模範的な市民」
ゲイシーはイリノイ州シカゴ近郊に住み、建設業を営む実業家だった。政治家との写真も残り、地域活動にも積極的に参加するなど、外から見れば成功した市民の一人だった。
さらに彼は、ボランティアとして「ポゴ・ザ・クラウン」というピエロに扮し、病院や地域イベントで子どもたちを喜ばせていた。この姿こそが、後に彼を「殺人ピエロ」と呼ばせる象徴となる。

犯行の実態
1970年代前半から後半にかけて、ゲイシーは若い男性や少年を中心に少なくとも33人を殺害したとされている。
仕事を紹介する、食事を振る舞うといった口実で自宅に招き入れ、そこで犯行に及んだ。恐ろしいのは、その多くの遺体が自宅の床下に埋められていたことだ。
日常生活が営まれる家の真下に、これほど多くの犠牲者が眠っていた事実は、事件発覚後、全米に強烈な衝撃を与えた。
なぜ発覚が遅れたのか
この事件が長期間見過ごされた背景には、「先入観」があったといわれている。
- 地域活動に熱心
- ピエロとして子どもに親しまれている
- 社会的地位がある
こうした要素が重なり、「まさかこの人物が」という思い込みが周囲にあった。
ゲイシー事件は、外見や社会的評価だけでは人の本質は判断できないという、重い教訓を残した。
逮捕と裁判、そして死刑
行方不明事件の捜査が進む中でゲイシーに疑いが向けられ、家宅捜索によって床下から遺体が次々と発見された。
裁判では複数の殺人罪で有罪となり、最終的に死刑判決が下される。1994年、彼は死刑を執行された。
「殺人ピエロ」が残した影響
この事件以降、ピエロという存在はホラー表現の中で「恐怖の象徴」として描かれることが増えた。
本来は人を楽しませる仮面が、信頼を得るための“偽りの顔”にもなり得る――そのギャップが、現代のホラーや犯罪ドキュメンタリーに強い影響を与えている。
現代に語り継がれる理由
ゲイシー事件が今も語られるのは、単なる猟奇事件だからではない。
「普通に見える人間が、社会の中でどれほど容易に仮面を被れるのか」
「私たちは何を根拠に他者を信頼しているのか」
こうした問いを突きつける事件だからだ。
近年では、Netflixの モンスター:ジョン・ウェイン・ゲイシーの物語 などで再び注目を集め、若い世代にも知られるようになった。
映像作品を通じて事件を知ることは、恐怖を消費するだけでなく、同じ過ちを繰り返さないための“記憶”として重要な意味を持つ。
おわりに
ピエロと呼ばれた殺人鬼、ジョン・ウェイン・ゲイシー。
彼の事件は、善意や笑顔の裏側に潜む危険性、そして人間の二面性を強烈に示している。
この事件を知ることは、恐怖を味わうためだけではなく、「信頼とは何か」を考えるきっかけになるはずだ。













