なぜ性と殺意は結びつくのか――エロトフォノフィリアをめぐる考察。エロトフォノフィリアという語は、「エロス(性)」「フォノス(殺す)」「フィリア(嗜好)」を組み合わせた造語である。しかし、この言葉は正式な診断名ではない。

エロトフォノフィリアとは何か

――性と暴力が結びつくとき、人は何を見ているのか

「エロトフォノフィリア(erotophonophilia)」という言葉は、一般にはあまり知られていない。しかし、犯罪心理学や精神医学、さらにはメディア論の文脈では、ときおり登場する概念である。この言葉は、性的興奮や欲望が“殺害”や“致死的な暴力”と結びつくとされる嗜好を指す際に用いられる。

ただし、最初に強調しておくべき重要な点がある。エロトフォノフィリアは、特定の行為を肯定・推奨する概念ではない。むしろ、極めて危険性の高い衝動や思考を理解し、分析するための言語として使われてきたものである。


用語の背景と位置づけ

エロトフォノフィリアという語は、「エロス(性)」「フォノス(殺す)」「フィリア(嗜好)」を組み合わせた造語である。しかし、この言葉はDSM(精神疾患の診断基準)などに正式な診断名として掲載されているわけではない。

そのため、これは医学的に厳密な診断名というよりも、犯罪心理学・行動分析のための記述的な概念と理解するのが適切だろう。実際の研究では、連続殺人事件や異常犯罪の分析過程で、後付け的に用いられるケースがほとんどである。


なぜ研究対象になるのか

この概念が注目される理由は、「性」と「暴力」という、本来は異なるはずの欲求が、なぜ一部の人間の中で結びついてしまうのか、という問いにある。

研究や分析の中では、次のような要素がしばしば指摘される。

  • 相手の生死を支配することで得られる全能感
  • 性的興奮と攻撃性が分離せず、同時に立ち上がる心理構造
  • 想像や妄想が次第に強化され、より強い刺激を求めていく過程
  • サディズムやネクロフィリアなど、他のパラフィリアとの重なり

これらはあくまで「分析上の傾向」であり、すべての事例に当てはまるものではない。


よくある誤解と注意点

エロトフォノフィリアについて語る際、最も多い誤解は「凶悪犯罪者=この嗜好を持つ人」という短絡的な理解である。しかし実際には、殺人の動機は多岐にわたり、性的要因が中心となるケースは極めて限られている。

また、「危険な嗜好を持つ人は必ず犯罪に至る」という考えも正確ではない。思考・ファンタジーと、現実の行動との間には大きな隔たりがある。多くの場合、人は社会的・倫理的な制御の中で行動しており、衝動を抱えたからといって必ず実行に移すわけではない。


フィクションと現実の距離

映画やドラマ、ドキュメンタリーなどでは、エロトフォノフィリアという言葉が強烈なキャラクター造形のために使われることがある。しかし、創作の中ではこの概念が単純化・誇張されがちだ。

現実の人間心理は、もっと曖昧で、矛盾に満ちている。ひとつの言葉で全てを説明できるほど、人間の欲望や衝動は単純ではないという点は、常に意識しておく必要があるだろう。


なぜ「知る」必要があるのか

この概念を学ぶ意義は、センセーショナルな興味を満たすことではない。むしろ、危険性の高い衝動がどのように形成され、どの段階で抑止や支援が必要になるのかを理解するためにある。

言葉を与えることは、問題を可視化することでもある。エロトフォノフィリアという用語もまた、「存在を認識し、対処を考えるための枠組み」として扱われるべきものだ。


まとめ

エロトフォノフィリアとは、性と致死的暴力が結びつくとされる、極めて稀で危険性の高い嗜好を説明するための概念である。それは診断名ではなく、犯罪心理や精神医学の文脈で用いられる分析用語に近い。

重要なのは、この言葉をロマン化せず、消費せず、冷静に理解することだろう。人間の欲望の暗部を知ることは、不安を煽るためではなく、社会として向き合うための第一歩なのだから。

PRF